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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)738号 判決 1969年4月25日

原告 大坂勇 外二名

被告 アサヒ交通有限会社

主文

被告は原告大坂勇に対し四一万〇三六五円、同水谷隆昭に対し二万一七二〇円、同平井良子に対し五万四一四〇円および同大坂勇の三七万〇三六五円、同水谷隆昭の一万九七二〇円、同平井良子の四万九一四〇円に対する昭和四二年一〇月一日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告らの被告に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の、各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は、原告大坂勇に対し五五万〇七三〇円およびうち四四万八八一〇円に対する、同水谷隆昭に対し六万九四四〇円およびうち五万九四四〇円に対する、同平井良子に対し一二万八二八〇円およびうち一〇万八二八〇円に対する、いずれも昭和四二年一〇月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)  (事故の発生)

昭和四二年八月七日午後一一時五分ごろ、東京都板橋区桜川町二丁目二一番一三号先道路上において、別紙記載のとおり佐瀬浩(以下佐瀬という。)の運転する営業用乗用普通自動車(足五い〇七六七号。以下、被告車という。)と折から同所を右折しつつあつた原告水谷隆昭の運転する小型四輪貨物自動車(練馬四は四八〇四号。以下原告車という。)とが衝突し、その結果、原告車に乗つていた原告大坂勇、同水谷隆昭、同平井良子は傷害を受けた。

(二)  (責任原因)

被告会社は、被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により責任がある。

(三)  (損害)

(1)  原告大坂勇の蒙つた損害

(イ) 治療費 七万〇七三〇円

原告大坂勇は、本件事故によつて顔面、前頸部、胸部、胸背部、両前腕部及び手に第一乃至二度の熱傷ならびに左下腿擦過傷を受け、昭和四二年八月七日から同年九月三日までの間入院し、その後さらに通院加療を継続し、治療費として七万〇七三〇円の支出をした。

(ロ) 休業による利益の喪失 八万円

原告大坂勇は、露天商を営む大坂文雄の許に勤務し、本件事故の当時基本給その他手当を含め月平均六万円(一日平均二、〇〇〇円)の収入を得ていたが、本件事故の結果、昭和四二年八月八日から四〇日間休業したため、その間得べかりし八万円を得ることができなかつた。

(ハ) 慰藉料 三〇万円

原告大坂勇は本件事故により前記のとおりの傷害を負い、精神的肉体的に長らく苦しんだばかりでなく、右熱傷のため右側急性化膿性中耳炎および外耳を併発し、現在に至るも鼓膜穿孔ならびに難聴を残す状態であり、これによる将来の労働能力低下も十分に見込まれるところである。よつて、同人の蒙つた苦痛を慰藉するものとしては三〇万円が相当である。

(2)  原告水谷隆昭の蒙つた損害

(イ) 治療費 四四四〇円

原告水谷隆昭は、本件事故によつて顔面及び頸部に第一乃至二度の熱傷を負い、昭和四二年八月七日から同月一六日までの間通院加療をし、治療費として四四四〇円を支出した。

(ロ) 休業による利益の喪失 一万五〇〇〇円

原告水谷隆昭は、前記大坂文雄の許に勤務し、本件事故の当時基本給その他手当を含め月平均四万五、〇〇〇円(一日平均一、五〇〇円)の収入を得ていたが、本件事故の結果、昭和四二年八月八日から一〇日間休業したため、その間得べかりし一万五、〇〇〇円を得ることができなかつた。

(ハ) 慰藉料 四万円

原告水谷隆昭は、本件事故により前記のとおりの傷害を受けたので、同人の苦痛を慰藉するものとして四万円が相当である。

(3)  原告平井良子の蒙つた損害

(イ) 治療費 一万九〇八〇円

原告平井良子は、本件事故によつて顔面、左前腕部ならびに手に第一乃至二度の熱傷及び右下腿擦過傷を負い、昭和四二年八月八日より同月一七日までの間入院し、その後さらに八月二二日まで通院加療を受け治療費として、一万九〇八〇円を支出した。

(ロ) 休業による利益の喪失 二万九二〇〇円

原告平井良子は、前記大坂文雄の許に勤務し、本件事故の当時基本給その他手当を含め月平均金三万六、〇〇〇円(一日平均一、二〇〇円)の収入を得ていたが、本件事故の結果、昭和四二年八月八日から一六日間休業したためその間得べかりし二万九、二〇〇円を得ることができなかつた。

(ハ) 慰藉料 六万円

原告平井良子は、本件事故により前記のとおりの傷害を受けたので、同人の苦痛を慰藉するものとして六万円が相当である。

(4)  弁護士費用

以上により、原告大坂勇は四五万〇、七三〇円、同水谷隆昭は五万九、四四〇円、同平井良子は一〇万八、二八〇円の損害賠償請求権を被告に対し有するところ、被告は任意にこれを弁済しないので、原告らはその請求のため訴訟提起のやむなきに至り、東京弁護士会所属弁護士雨宮正彦に対し、訴訟の提起と追行とを委任し、同会の弁護士報酬規定による報酬額の標準のうち最低料率による手数料および謝金を、第一審判決言渡日に支払うことを約した。原告らの右各請求権の合算額金六一八、四五〇円に対応する手数料および謝金の最低料率は各一割二分であるからこれにより計算すると手数料と謝金とを合算して原告大坂勇は一〇万円(一万円未満切捨)、同水谷隆昭は金一万円(一万円未満は切捨)、同平井良子は金二万円(一万円未満は切捨)の債務を右弁護士に対し、本判決言渡日を支払日として負つたものであり、これも本件事故と相当因果関係ある損害というべきである。

(四)  (結論)

よつて、原告大坂勇は五五万〇、七三〇円、同水谷隆昭は六万九、四四〇円、同平井良子は金一二万八、二八〇円の支払いを求め、うち弁護士費用を除いた原告大坂勇の四四万八、八一〇円、同水谷隆昭の五万九、四四〇円、同平井良子の一〇万八、二八〇円に対して本件事故発生の後である昭和四二年一〇月一日から右各支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告の答弁ならびに抗弁

(一)  第一、第二項は認める。第三項は、争う。

(二)  (免責)

本件事故は、被告車が池袋方面から成増方面に向けて時速約五〇キロメートル位で直進していたところ、対向してきた原告車が被告車の直前で右折しようとした結果発生したものである。

従つて被告車の運転者であつた佐瀬には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに原告水谷の過失によるものである。また、被告には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は自賠法三条但書により免責される。

(三)  過失相殺

かりに然らずとするも、本件事故発生については、原告水谷の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。なお、原告車は、大坂君子の所有であるが、原告大坂勇は同人の子、原告平井は原告大坂勇の内縁の妻として、原告大坂勇の父である大坂文雄の営む露天商を手伝い、原告車を利用していたものである。ところで、原告水谷は、右大坂文雄に雇われ、露天商の仕事に従事していたものである。原告大坂勇、同平井と同水谷とが右のような関係にある以上、原告大坂勇、同平井の損害賠償額の算定にあたつては、原告水谷の過失を斟酌されるべきである。

第三当事者双方の提出、援用した証拠<省略>

理由

一  (事故の発生)

原告主張の日時、場所において、原告主張の事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

二  (責任原因)

被告が被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであることは、当事者間に争いがないから、免責が認められない限りは被告は、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

三  (免責)

成立に争いのない乙第一号証、原告水谷隆昭および被告佐瀬浩に対する各本人尋問の結果の各一部(後記措信しない部分を除く。)によれば、本件事故現場は、池袋方面より成増方面に通ずる幅員一六・七メートル、その両端に幅員四・二メートルの歩道のある道路と志村中台方面より練馬方面に通ずる幅員六・六メートルの道路が交差する交通整理の行われていない交差点であること、成増方面から進行してきた原告水谷は、本件交差点附近に至り、練馬方面に右折するため右折の合図をしながら中央線附近に入つたとき、池袋方面から対向して本件交差点に進行中の被告車を四、五〇メートル先に認めたが、被告自動車が本件交差点附近にくるまでに、右交差点を通過し得るものと判断し、そのまま右折進行したこと、被告車を運転していた佐瀬は、時速六〇キロメートル以上の速度で池袋方面より本件交差点に進行してきたが、原告車の右折しようとしているのを約二〇メートル手前で発見したため、被告車の前部を原告車の左側面に衝突させるに至つたことを認めることができ、右認定に反する原告水谷隆昭および被告佐瀬浩の各本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

ところで、佐瀬は、本件交差点を右折しようとしていた原告車を認識していたのであるから、その動静を十分に注視していたならば、原告車との衝突を回避し得たにもかかわらず、これを怠つた過失があるということができる。もつとも、原告水谷が中央線附近で被告車を認めた際、原告自動車と被告自動車の速度位置、道路の幅員等からすれば、当然衝突の危険のあることを予測し得たと認められるにかかわらず、被告自動車の前方を通過することができると判断し、そのまま進行した過失を免がれないが、それだからといつて、佐瀬の前記過失に消長をきたすものではないというべきである。

従つて、被告の免責の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  (過失相殺)

本件事故の発生につき、原告水谷に過失の認められることは、先に認定したとおりであり、被告車の運転者佐瀬と原告水谷の過失割合は、五対五と認めるのが相当である。

ところで、本件事故は、佐瀬と原告水谷の共同過失により発生したものであるから原告大坂勇、同平井の損害については、佐瀬の使用者たる被告と原告水谷とが共同不法行為者として賠償責任を負担するわけである。しかし証人大坂君子の証言ならびに原告水谷隆昭の本人尋問の結果によれば、原告大坂勇、同原告の内縁の妻である原告平井は、原告水谷ほか一名とともに、訴外大坂文雄の営む露天商の手伝いをしていたこと、原告水谷は、原告大坂勇の友人であつた関係から右大坂文雄の許に勤めるようになつたこと、原告車は、原告大坂勇の母大坂君子の所有であり、同原告らがこれを右仕事等に利用していたところ、事故当日、原告大坂勇、同平井は、同水谷とともに、上板橋の縁日に店を出して、その帰途原告水谷の運転する原告車に同乗していた際、本件事故に遭つたことを認めることができる。そうだとすれば、原告水谷は、原告大坂勇、同平井らと家族同様の関係にあつたものであり、又、実質上は、被用者と同視できる立場にあつたというべきであり、原告水谷を加害者である被告と同列に賠償請求の相手方とするよりも、むしろ被害者側の内部関係として処理させるほうが、公平であると認められる地位にある者とみられる。従つて、原告水谷の過失を被害者側の過失として、原告大坂勇、同平井の損害賠償の算定についても、これを斟酌するのが相当である。

五  (損害)

(一)  原告大坂勇の損害

(1)  治療費

証人大坂君子の証言により成立を認める甲第一号証、第五号証の一ないし四、第八号証、証人大坂君子の証言によれば、原告大坂勇は、本件事故によつて、顔面、前頸部、胸部、胸背部、両前腕部および手に第一ないし二度の熱傷ならびに左下腿擦過傷を受け、昭和四二年八月七日より同年九月三日までの間、金子外科病院に入院し、その後引き続き同月一一日頃まで通院加療をし、治療費として、七万〇、七三〇円を支出したことを認めることができるから、同原告は、本件事故により同額の損害を受けたものということができるが、原告水谷の前記過失を斟酌すると、右金額の五割にあたる三万五、三六五円を被告に負担させるのを相当とする。

(2)  休業による利益の喪失

証人大坂君子の証言により成立を認める甲第九号証、証人大坂君子の証言によれば、原告大坂勇は、露天商を営む大坂文雄の許に勤務し、本件事故の当時、基本給その他手当を含め、月平均六万円(一日平均二、〇〇〇円)の収入を得ていたが、本件事故の結果、昭和四二年八月八日より同年九月一一日まで欠勤を余儀なくされ、その間七万円の給与を得ることができなかつたことが認められるが、原告水谷の前記過失を斟酌して、右の金額のうち、三万五、〇〇〇円を被告に負担させるのを相当とする。

(3)  慰藉料

原告大坂勇は、本件事故により前記傷害を受け、入、通院したことは先に認定したとおりであるが、証人大坂君子の証言により成立を認める甲第二号証、証人大坂君子の証言によれば、原告大坂勇は、本件受傷により、右側急性化膿性中耳炎および外耳を併発し、鼓膜穿孔、難聴を残したことを認めることができる。そこで、同原告の蒙つた精神的苦痛を慰藉するものとしては、原告水谷の前記過失を斟酌して、三〇万円を被告に負担させるのを相当とする。

(二)  原告水谷隆昭の損害

(1)  治療費

証人大坂君子の証言により成立を認める甲第三、第六号証、証人大坂君子の証言ならびに原告水谷隆昭本人尋問の結果によれば、原告水谷は、本件事故により、顔面および頸部に第一ないし二度の熱傷を負い、昭和四二年八月七日から同月一六日まで金子外科病院で通院治療を行い、治療費として、四、四四〇円を支出したことが認められるが、同原告の前記過失を斟酌すると、右金額のうち、二、二二〇円を被告に負担させるのを相当とする。

(2)  休業による利益の喪失

証人大坂君子の証言により成立を認める甲第一〇号証、証人大坂君子の証言ならびに原告水谷隆昭の証言によれば、原告水谷は、前記大坂文雄の許に勤務し、本件事故当時基本給その他手当を含め月平均四万五、〇〇〇円(一日平均一、五〇〇円)の収入を得ていたが、本件事故の結果一〇日間休業したため、その間の給料一万五、〇〇〇円を得ることができなかつたことが認められるが、同原告の前記過失を斟酌すると、右金額のうら、七、五〇〇円を被告に負担させるのを相当とする。

(3)  慰藉料

原告水谷は、本件事故により前記傷害を受け、通院したことは、先に認定したとおりであり、その慰藉料としては同原告の前記過失を斟酌すると一万円を被告に負担させるのを相当とする。

(三)  原告平井良子の損害

(1)  治療費

証人大坂君子の証言により成立を認める甲第四号証、第七号証の一ないし三、証人大坂君子の証言によれば、原告平井は、本件事故によつて、顔面、左前腕部および手に第一ないし二度の熱傷ならびに右下腿擦過傷を負い、昭和四二年八月七日より同月一七日まで金子外科病院に入院し、その後同月二二日まで通院加療を続け、治療費として一万九、〇八〇円を支出したことを認めることができるが、原告水谷の前記過失を斟酌すると、右金額のうち九、五四〇円を被告に負担させるのを相当とする。

(2)  休業による利益の喪失

証人大坂君子の証言により成立を認める甲第一一号証の一、二、証人大坂君子の証言によれば、原告平井は、前記大坂文雄の許に勤務し、本件事故当時、基本給その他手当を含め月平均三万六、〇〇〇円(一日平均一、二〇〇円)の収入を得ていたが、本件事故の結果、一六日間休業を余儀なくされたため、その間一万九、二〇〇円の給料を得ることができなかつたことを認めることができるが、原告水谷の前記過失を斟酌すると、右金額のうち、九、六〇〇円を被告に負担させるのを相当とする。

(3)  慰藉料

原告平井は、本件事故により、前記傷害を受け、入、通院をしたことは、先に認定したとおりであり、同原告の苦痛を慰藉するものとしては、原告水谷の前記過失を斟酌すると、三万円を被告に負担させるのを相当とする。

(四)  弁護士費用

以上により原告らは被告に対し右損害の賠償を請求しうるものであるところ、本件弁論の全趣旨によれば、被告はその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告訴訟代理人にその取立てを委任し、東京弁護士会所定の報酬範囲内で、原告大坂勇は一〇万円、同水谷は一万円、同平井は二万円を支払うことを約したことを認めることができるが、右金額のうち本訴認容金額の約一割にあたる、原告大坂勇につき四万円、同水谷につき二、〇〇〇円、同平井につき五、〇〇〇円を被告に負担させるのを相当とする。

六  (結論)

よつて、被告に対し、原告大坂勇は四一万〇、三六五円、同水谷は、二万一、七二〇円、同平井は、五万四、一四〇円および弁護士費用を除いた原告大坂勇の三七万〇、三六五円、同水谷の一万九、七二〇円、同平井の四万九、一四〇円に対する事故発生の日以後の日である昭和四二年一〇月一日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九二条、九三条、八九条、仮執行の宣言につき同法第一八九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

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